あなたの「困った」をなくす新しい遺言の形――プチ遺言とは何か?

相続や遺言と聞くと、「まだ早い」「難しそう」「お金がかかりそう」と感じる方は少なくありません。しかし、何も決めないまま亡くなった場合、家族間で思わぬトラブルが起こることもあります。そこで今回は、必要な部分だけ気軽に残せる新しい考え方「プチ遺言」について解説します。高いハードルを下げ、あなたや家族の「困った」を減らすための第一歩です。

そもそも「プチ遺言」とは何か?

聞いたことがないのが普通です

「プチ遺言」という言葉を聞いたことがある方は、ほとんどいないのではないでしょうか。
一般的に知られているのは、「遺言書」や「公正証書遺言」といった、少し堅苦しく感じる言葉ばかりです。

プチ遺言とは、全財産を完璧に整理して書く従来型の遺言ではなく、特定の財産や特定の想いだけを切り取って残す遺言の考え方です。

「一部だけ決める」という発想

従来の遺言は、
・財産をすべて洗い出す
・一つひとつ評価する
・誰に何をどの割合で渡すかを決める
という「フルセット型」が前提でした。

一方、プチ遺言はこう考えます。
「全部は大変だから、まずは“これだけは決めたい”ところだけ書こう」
この発想こそが、遺言のハードルを大きく下げてくれます。

なぜ遺言はこんなにハードルが高いのか

不動産・相続の現場で見えてくる現実

不動産業に携わっていると、相続前後の相談を数多く受けます。
・相続税はいくらかかるのか
・このままでは子どもたちが揉めないか
・不動産をどう分けるべきか
こうした相談の中で、必ず話題に上がるのが「遺言」や「家族信託」です。

完璧主義が生むコストと手間

従来の遺言は「全部を完璧に把握する」ことが前提でした。
・不動産
・預貯金
・保険
・株式、NISA、iDeCo
・その他の資産
これらをすべて洗い出し、評価する作業は非常に大変です。
当然、専門家に依頼すれば費用も時間もかかります

専門家に依頼すると、いくらかかるのか?

費用は一律ではない

遺言作成の費用は、財産の数や内容、相続人の状況によって大きく変わります。
・行政書士
・司法書士
・弁護士
・信託銀行
依頼先によっても金額は異なり、10万円程度から、場合によっては150万〜200万円以上になることもあります。

なぜ高くなるのか

専門家に依頼すると、当然ですが「完璧」を目指します。
・曖昧な表現を排除
・将来のトラブルを想定
・すべての財産を網羅
これは安心材料である一方、
「高額」「時間がかかる」「簡単に見直せない」というデメリットも生みます。

想定通りにいかないのが相続

人生は予定通りには進まない

相続の現場では、こんなことが珍しくありません。
・本来相続するはずの子どもが先に亡くなる
・仲の良かった家族関係が変わる
・思っていた人物が期待通りに動かない
「完璧な遺言」を作っても、現実が追いつかないことは多々あります。

プチ遺言という選択肢

全部やらなくていい

プチ遺言では、次のように考えます。
・全財産を一度に決めなくていい
・大事なものから順番に決めればいい
・プチ遺言は一つでなくてもいい
つまり、
・自宅のプチ遺言

・預金のプチ遺言
・特定口座のプチ遺言
これらが複数存在しても問題ありません

具体的なプチ遺言の例

自宅だけを決める

「自宅は必ず妻に残したい」
「自宅は長男に継がせたい」
こうした意思が明確なら、自宅についてだけ遺言を書くという選択が可能です。

預金口座を色分けする

預金は一見すると「色がない財産」ですが、実際には目的を持って貯めている方が多いものです。
・孫の学費
・子どもの将来資金
・介護や生活費
「○○銀行○○支店の口座は孫へ」と明記することで、
そのお金に込めた意思を明確に残すことができます。

ペットのためのプチ遺言

ペットは法定相続人ではありません。
だからこそ、
・誰に世話を託すのか
・飼育費用をどうするのか
これを明文化しておくことは非常に重要です。

プチ遺言の法的効力

要件を満たせば効力はある

プチ遺言であっても、法的要件を満たせば有効な遺言です。

代表的なのが、
・自筆証書遺言
・公正証書遺言
書式やルールを守ることが重要になります。

自筆証書遺言の特徴

・原則として全文自筆
・日付と署名、押印が必要
・思いを直接書ける
費用を抑えたい方には、非常に相性の良い方法です。

プチ遺言のメリット

とにかく始めやすい

・専門家が必須ではない
・コストがほぼかからない
・思い立ったらすぐ書ける
これが最大の魅力です。

気持ちを残せる

「なぜこの人に渡すのか」
「どんな想いがあるのか」
こうした気持ちを書くことで、
相続人同士の無用な誤解や争いを防ぐ効果が期待できます。

書き直しが簡単

状況が変われば、すぐに書き直せる。
これこそが、プチ遺言最大の強みです。

なぜ「全部決めない遺言」が現実的なのか

相続というものは、事前にすべてを想定して準備したつもりでも、実際にはその通りに進まないケースが非常に多いものです。
親よりも先に子どもが亡くなってしまうこともあれば、家族関係が時間とともに変化していくこともあります。

「この子なら大丈夫」「この人に任せたい」と思っていた相続人が、数年後にはまったく違う状況になっていることも珍しくありません。
こうした変化を前提に考えると、一度作った遺言を何十年もそのまま使い続けること自体が、現実的ではないとも言えます。

高額な遺言ほど見直しづらい問題

専門家に依頼して完璧な遺言を作成すると、内容は非常に整ったものになります。
しかしその反面、費用が高額になりやすく、「せっかくお金をかけたから簡単には変えられない」という心理が働きます。

結果として
・状況が変わっても遺言を修正しない
・本音とはズレた内容が残り続ける
こうした問題が起こりがちです。

プチ遺言は、こうした「見直せない遺言」の弱点を補う考え方でもあります。

プチ遺言は「気持ちの整理」にもなる

誰に何を託したいのかを考える時間

プチ遺言を考える過程では、自然と次のような問いが生まれます。
・自分にとって本当に大切な財産は何か
・誰に、どんな思いで残したいのか
・家族に何を伝えたいのか
これは単なる法律行為ではなく、人生の整理そのものとも言える作業です。

想いを書くことがトラブル防止につながる

遺言には、財産の分け方だけでなく「付言事項」として気持ちを書くことができます。
この部分に、
・なぜこの人に渡すのか
・どんな思いでこの決断をしたのか
を書いておくことで、相続人が納得しやすくなり、感情的な対立を防ぐ効果が期待できます。

特にプチ遺言のように直筆で作成する場合、その筆跡そのものが「本人の想い」として伝わることも少なくありません。

最初の一歩としてのプチ遺言

完璧を目指さないことが続けるコツ

「全部決めなければ意味がない」
「ちゃんとした形じゃないとダメ」
そう考えてしまうと、遺言はいつまでも先延ばしになってしまいます。

プチ遺言は、
・できるところから
・決まっているところだけ
・今の気持ちのまま
始めてよい遺言です。

小さな遺言が、将来の大きな安心につながる

たとえ一部であっても、
「ここだけは揉めてほしくない」
「これは必ずこの人に渡したい」
その意思を残しておくことは、残される家族にとって大きな助けになります。

プチ遺言は、将来の相続対策の入口であり、
本格的な遺言や家族信託へ進むための土台にもなります。

プチ遺言を書くためのステップ

ステップ1|全体像をざっくり把握する

完璧でなくて構いません。
「どんな財産があるか」を大まかに把握します。

ステップ2|今決めたいものを選ぶ

・これだけはこの人に渡したい
・ここだけは揉めてほしくない
そんなポイントを選びます。

ステップ3|書式に沿って書く

法的要件を守りながら、
自分の言葉で書いていきましょう。

専門家のチェックを受けるという選択

「自分で書くのは不安」という方は、
チェックだけ専門家に依頼するという方法もあります。
・行政書士
・司法書士
・弁護士
「即アウト」にならないような確認をしてもらうだけでも、安心感は大きく違います。

まとめ

プチ遺言とは、全財産を完璧に決める従来型の遺言ではなく、「今決めたい部分だけ」を気軽に残す新しい考え方です。高額な費用や手間を理由に遺言を先延ばしにするよりも、まずは一歩踏み出すことが家族トラブルの予防につながります。書き直しが簡単で、想いも伝えられるプチ遺言は、これからの時代に合った相続対策と言えるでしょう。

この記事を書いた人

代表取締役士杉山善昭
代表取締役士杉山善昭
宅地建物取引士、建築士、公認不動産コンサルティングマスターなどの有資格者。
「相続した実家、売る?貸す?使う?」
「杉山善昭の不動産ワクチンがいまなぜ必要か?」著者
(公社)神奈川県宅地建物取引業協会理事兼中央無料相談所相談員。
1990年から不動産業界に従事、2005年(有)ライフステージ代表取締役就任。