【宅建士が解説】「家を残せば安心」は親の思い込み?子世代との価値観のズレと実家相続の処方箋
「せっかく建てた家だから、子供たちに引き継いでもらいたい」と願う親世代に対し、「管理が大変だし、現金で相続するほうがいい」と考える子世代。この相続における価値観のズレが、今、多くの家庭で深刻な問題となっています。良かれと思って残した実家が、将来子供たちの負担、いわゆる「負動産」になってしまうケースは少なくありません。本記事では、現役宅建士の視点から、親子間の意識の乖離が生まれる背景や、円満な相続のために今すぐ始めるべき準備について詳しく解説します。
相続における「親の思い」と「子の本音」:なぜ価値観がズレるのか
相続の現場で多く目にするのが、親と子の間にある圧倒的な「意識の差」です。親御さんの多くは、「家さえ残しておけば、子供たちは住む場所に困らず、安心して暮らせるはずだ」と考えていらっしゃいます。しかし、現実はそう単純ではありません。
親世代が持つ「家は守るもの」というアイデンティティ
今の70代、80代、90代といった親世代の方々は、高度経済成長期を経て、慢性的な「家不足」の時代を生き抜いてきました。当時は、年齢を重ねてから家を借りることが難しく、自前の「終の棲家」を持つことが社会的なステータスであり、生活の安定そのものでした。
また、地方などでは「家督相続」という考え方が根強く残っていた時代もあります。一家の主が長男として跡を継ぎ、先祖代々の土地と建物を守り抜く。こうした「家守(いえもり)」の概念が、親世代のアイデンティティに深く刻まれているのです。「第三者に売るなんてとんでもない」「先代に申し訳ない」という強い誇りや縄張り意識は、この時代背景から生まれています。
子世代の現実:管理の負担と利便性重視
一方で、現在のお子さん世代を取り巻く環境は激変しています。ニュースでも頻繁に報じられている通り、現代の日本は「空き家」が余っている時代です。
子供世代の本音を代弁すれば、「庭の草むしりや建物の維持管理が面倒くさい」「田舎の実家に戻るつもりはない」というのが本音です。現代の生活スタイルは、利便性の高い駅近のマンション、鍵一本で戸締りができ、学校や病院が近い環境を好む傾向にあります。
また、現代は教育費や生活費の負担が重く、親の世代とは経済的な状況も異なります。実家を維持するだけの金銭的な余裕がないという切実な事情も、価値観のズレに拍車をかけているのです。
時代背景の変化:高度経済成長期から人口減少社会へ
なぜこれほどまでに親子の考えが食い違うのでしょうか。それは、生きてきた時代の「常識」が正反対だからです。
「家不足」から「家余り」の時代へ
親世代が家を建てた時代は、人口が増え続け、不動産の価値は右肩上がりでした。しかし現在は、日本の人口は減少の一途を辿っています。外国人労働者の受け入れなど、劇的な社会変化がない限り、この傾向は今後も続くでしょう。
今や、家は「資産」ではなく、持ち続けるだけでコストがかかる「負債」になるリスクを孕んでいます。地方自治体が移住相談会やスカウト合戦を行っていますが、それでも人口流出は止まりません。こうしたマクロな視点での変化を、まずは親世代が理解する必要があります。
教育費の高騰と生活困窮
もう一つの大きな変化は、家計にかかる負担の内訳です。現代の親が子供にかける教育費は、数十年前とは比較にならないほど高騰しています。生活を維持するだけで精一杯という家庭も多く、出生率が2を切っている現状は、こうした経済的負担の重さを反映していると言えるでしょう。
このような状況下では、子供たちは「将来の安心」のために家を欲しがるよりも、「現在の生活」を支える現金を求めるようになります。「家よりも現金がほしい」という子供の言葉は、決して親への愛情不足ではなく、シビアな生存戦略の結果なのです。
実家を放置するリスクと「問題の露呈」
親が元気なうちは表面化しない問題も、相続が発生し、いざ売却や処分を検討し始めた途端に噴出してきます。
隣地境界線と越境問題
特によくあるトラブルが「隣地との境界線」です。親が住んでいる間は「お互い様」で済んでいたことが、第三者に売却しようとすると厳格な確認を求められます。
・電線が敷地の上を通っている
・隣の家の屋根や雨樋がこちらの敷地にはみ出している(越境)
・塀の所有権がどちらにあるか曖昧
こうした問題は、解決までに多大な時間と費用がかかります。相続後に子供たちがこれらのトラブルに直面すると、その精神的・経済的負担は計り知れません。
老朽化と空き家放置の赤字
親が施設に入居し、実家が空き家になった場合、その家は「赤字を生む装置」へと変わります。固定資産税、火災保険料、光熱費の基本料金、そして定期的なメンテナンス費用。住んでいない家のためにこれらのお金を払い続けるのは、現代の家計にとって大きな痛手です。
しかし、親御さんの中には「いつか家に戻るかもしれない」という希望を持っている方も多く、その思いが子供たちに「売却」という選択を躊躇させてしまいます。実家が心の支えになっている場合、無理に売ることはできませんが、その間に家は傷み、価値は下がっていくというジレンマが生じます。
解決の鍵は「生前からの対話」と「意思の疎通」
こうした悲劇を避けるためには、親が健康で、判断能力がしっかりしているうちに対話を始めることが不可欠です。
認知症になる前に「本音」をぶつけ合う
認知症になってしまい、意思表示ができなくなると、家の売却や契約行為は法律的に非常に困難になります。そうなる前に、お子さん全員が集まる機会を設け、腹を割って話す場を作ってください。
「お前ら、この家に住むつもりはあるか?」「俺がいなくなった後、この家をどうしたいと思っているか?」と、親のほうから切り出すことが重要です。もし子供たちがいらないと言うのであれば、早めに処分の準備を進めることができますし、親としても「それなら元気なうちに現金化して、自分たちの老後資金にしよう」と切り替えることができます。
施設入居を「売却のタイミング」として合意しておく
最近では、施設に入ることが決まった段階で実家を売却するケースも増えています。施設に入ると、多くの場合そこが「終の棲家」となります。 「施設に入ることになったら、この家は売却して、そのお金を施設の費用や自分たちのサポートに使ってね」という意思確認を元気なうちにしておくだけで、子供たちは罪悪感なく手続きを進めることができます。
専門家を味方につける「チーム相続」のススメ
相続は、不動産、法律、税金など、多岐にわたる専門知識が必要です。家族だけで解決しようとせず、専門家をうまく活用しましょう。
境界確定や測量は生前に行うのがお得
「どうせいつかやるなら、生前にやったほうがお得です」とお伝えしているのが、土地の測量や境界の確認です。 これらを生前に行うと、その費用を親の財産から支払うことになります。すると、その分だけ相続財産が減り、結果として相続税が安くなる可能性があるのです。相続後に子供たちが自分たちの手出しで行うよりも、税務上のメリットが大きいケースが多いのです。
完璧を目指さない「プチ遺言」という選択肢
遺言書と聞くと、公証役場に行って、何十万円もかけて作成する「完璧なもの」を想像されるかもしれません。しかし、私はもっと気軽な「プチ遺言」を推奨しています。
人生のステージによって、状況は変わります。嫁いだ娘が実家に戻ってくることもあれば、孫が家を継ぎたいと言い出すかもしれません。最初から完璧なものを作ろうとせず、今の時点で「ここだけは決めておきたい」というパーツをレゴブロックのように組み合わせていく、あるいは必要に応じて上書きしていくというスタンスで良いのです。
状況の変化に合わせて遺言を更新していくことは、決して不自然なことではありません。むしろ、常に最新の家族状況を反映させておくことこそが、本当の意味での「思いやり」と言えるでしょう。
まとめ
相続は、単なる「物の受け渡し」ではなく、残された家族がこれからも幸せに暮らしていくための「バトンの受け渡し」です。親が良かれと思って残した家が、子供たちを苦しめる結果になっては本末転倒です。
大切なのは、親のプライドや縄張り意識を一度脇に置き、子供たちの現代の生活に寄り添ってみること。そして、子供たちもまた、親がその土地や家に込めた思いを丁寧に聞き取ることです。
住まない家は、時間が経つほどに家族の負担(赤字)を増やしていきます。もし「何か揉めそうだな」「何から手をつけていいかわからない」と感じたら、私たちのような専門家を頼ってください。第三者が入ることで、感情的な対立が整理され、理路整然と話が進むことも少なくありません。
1日でも早く準備を始めることが、家族全員の笑顔を守ることにつながります。まずは次の帰省の際、家族で「家のこれから」について少しだけ話してみませんか?
この記事を書いた人

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神奈川県生まれ
平成18年に不動産業界に入り、平成21年に宅建試験合格現在に至ります。
宜しくお願い致します。
近隣エリアにお住まいの不動産オーナー様。
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