借地権、先延ばしにしていたら手続きできなくなってしまった話

こんにちは、宅建士の杉山善昭です。

借地権付きの家を、使わないまま放置している。そんなご相談を受けることがあります。

放置している間も、地代は毎月かかり続けます。
それに加えて、更新のタイミングでは更新料というまとまったお金が出ていきます。
「そのうち考えよう」と先延ばしにしている間も、地代は積み上がっていきますし、更新までの時間もどんどん短くなっていく。時間が経てば経つほど、金銭的な負担は重くなる一方なのです。

ただ、お金の話以上に怖いのが、当事者が判断能力を失ってしまうリスクです。

実際にあったご相談を一つご紹介しますね。
母親が住んでいた実家が空家になっている。母は介護施設に入所。
ご相談者と弟さんがいらっしゃいました。

ご相談者さんが固定資産税や賃借料の支払い管理をしている。どんどん母親の預金残高が減っていくことで心配になり
負担となっている実家を手放そうと弟さんに相談するも、弟さんは「母が帰ってくる家がないのは不安」という。
自宅が狭くて受け入れる余裕がないという事も要因のようです。

母は相談者に任せるというも、弟さんの理解が得られず話は先延ばし状態に。
結果、どうなったか?

貯金がつき、弟さんがようやく事態を理解、売却の承認をしたころ、、、お母さんは認知症になってしまった。

このように、借地権を持っている依頼者側の方が、まさに決断を先延ばしにしている間に、認知症が進んでしまったケースがあります。借地権を売却する、あるいは地主さんと話をつけて整理する——こうした手続きには、本人の意思確認が必要です。
自分の非を認めたくない弟さん。ネットには「本人が住所と名前を書ければ大丈夫」という情報が出回っていると主張。しかし、これはとんでもない誤解です。

本人の意思確認は、

  1. 販売開始時
  2. 買主決定時
  3. 買主に引渡しをする時

合計3回。意思確認が必要です。
いくらで売却するのか?売却条件は?誰に売るのか?など、住所と名前が書ければ済む話ではないことは言うまでもありません。


判断能力が不十分になると、本人の意思で契約を結ぶこと自体ができなくなってしまいます。

そうなると、後見制度を使うことになります。家庭裁判所への申し立てから始まり、後見人が選ばれ、その後見人が家庭裁判所の許可を得て、ようやく手続きが進む。

時間もお金もかかりますし、何より「元気なうちに、自分の意思で決める」という選択肢は、もう戻ってきません。

認知症にはまだかかっていないけれど、一年先が少し不安だという方には、家族信託という方法もあります。
判断能力があるうちに、財産の管理や処分を家族に託しておく法的な手続きです。こちらは専門家をご紹介することもできますので、気になる方はご相談ください。

もう一人の当事者

もう一つ、見落としがちなものがあります。
今度は逆に、地主さん側が認知症になったり、亡くなってしまったりするケース。

借地権の整理には、地主さんとの交渉や承諾が必要な場面が多くあります。
地主さんが認知症になると、地主さん側も判断能力の問題で交渉が進められなくなります。さらに、地主さんが亡くなってしまうと、今度は相続人が複数出てきて、話をつけるべき相手が一気に増えてしまいます。

「あの頃、地主さんご本人とだけ話ができていれば」と後悔しても、時間は二度と戻ってきません。

「まだ大丈夫」と思っている間にも、自分の側にも、相手の側にも、時間の限界は近づいています。

私がよくお伝えしているのは、「これからの人生で、今が一番若い」ということです。
今日より若い日は、もう来ません。
判断能力があって、ご自身の意思で決められるのも、今この瞬間が一番確かなタイミングです。
「そのうち」と思っている間に、自分か、あるいは相手か——どちらかの状況が変わってしまうこともあります。
だからこそ、使っていない借地権付きの家は、早めに動いていただきたいのです。

この記事を書いた人

代表取締役士杉山善昭
代表取締役士杉山善昭
宅地建物取引士、建築士、公認不動産コンサルティングマスターなどの有資格者。
「相続した実家、売る?貸す?使う?」
「杉山善昭の不動産ワクチンがいまなぜ必要か?」著者
(公社)神奈川県宅地建物取引業協会理事兼中央無料相談所相談員。
1990年から不動産業界に従事、2005年(有)ライフステージ代表取締役就任。