“ちょっと一言”が、家族を救う。気軽に始めるプチ遺言のススメ

遺言って、なんだか重たい

「遺言」という言葉を聞くと、身構えてしまう人も多いのではないでしょうか。

「財産家が書くものじゃないの?」
「最期の最期に、厳かに書くものじゃないの?」
「なんだか、自分が“終わる準備”をするみたいで怖い」

そんなふうに思う方もいるかもしれません。

けれど、遺言が「あるか・ないか」だけで、その後の家族の運命が大きく変わることも事実です。
しかも、なにも“立派な遺言書”である必要はないのです。

大事なのは、「少しでも、気持ちを残しておくこと」。
そんな時代にぴったりの考え方が、「プチ遺言」です。

なぜ今、“ちょっと一言”が必要なのか

ここ数年、相続トラブルは確実に増加しています。
きっかけは、多くの場合「遺言がなかったこと」にあります。

たとえば——
「家は誰が住むのか?」「売るのか?」「遺品はどう分けるのか?」
こういったことが明確になっていないだけで、兄弟間の関係が一気にギクシャクしてしまう。

実際に、亡くなった親の自宅をどうするかで兄弟が疎遠になり、数十年口をきかなくなった…という話もあります。

でも、その一方でこんな声もよく聞きます。

「しっかりした遺言なんて、私には無理」
「専門家に頼んで公正証書を作るなんて、手間もお金もかかるし…」
「相続のことを考えるなんて、まだ早い気がする」

そうですよね。
だからこそ必要なのです、**“ちょっと一言”**だけでも書いておくことが。

プチ遺言とは?気軽だけど、大きな効果

プチ遺言とは、「全部じゃなくていい。まずは“伝えておきたいこと”を少しだけ書く」という考え方です。

法的な形式にこだわる必要はありません。
メモ帳に手書きでもいい。スマホのメモアプリでもいい。
重要なのは、「誰に何をどうしてほしいか」が書かれていることです。

形式よりも、「想い」と「実務的なヒント」を残すこと。

たとえば、「この家は長男に住んでほしい」「私の預金は◯◯銀行にある」といったことだけでも、残された家族にとっては大きな道しるべになります。

家族は、何よりも「亡くなった方の意思が分からないこと」に悩むのです。
判断基準がないと、誰かが決めるたびに「それでよかったのか…」と不安が残ってしまいます。

だからこそ、たった一言でも“言葉が残っている”ことが、家族にとって救いになるのです。

どんなことを書くと役に立つ?実例紹介

では、実際にプチ遺言で書いておくと役に立つのは、どんなことなのでしょうか?
いくつかの実例をご紹介します。

例1:「自宅は長男に住んでもらいたい。売らずに維持してほしい」

不動産の扱いは相続トラブルの最大の火種です。
この一言があるだけで、「売る?貸す?取り壊す?」といった議論の方向性が定まります。

例2:「預金口座は3つあります。メインは◯◯銀行。カードは仏壇の下にあります」

家族が探す手間が減るだけでなく、休眠口座や埋もれた財産の取りこぼしを防げます。
何よりも、「どこにあるかわからない」ことが遺族を疲弊させます。


〇〇銀行のお金は、次男の結婚費用に使ってほしい、◇◇信用金庫のお金は孫の●●の大学進学費用に使ってほしい。とか、銀行+用途を書いておくと、その口座のお金はその目的で貯めたお金なんだということが明確に分かりますよね。

例3:「◯◯司法書士に相談しています。相続登記はお任せしてください」

相続手続きをスムーズに進める鍵は“相談先”の明記です。
連絡を一本入れるだけで手続きが始まる状態なら、家族の負担は激減します。

こういった内容は、すべて「法的効力のある遺言」ではないかもしれません。
でも、家族を“迷わせない”効果は絶大です。

何故なら相続手続きには、関係者の戸籍関係の書類が必要で、相続人がこれを集めるのはとても大変な事が多い。
だから、生前に親が取得しておく。
もちろん、生前に取得したからといって全てが整う訳ではありませんが、相続人の負担は相当軽減されます。

気軽に始めるにはどうすればいい?

プチ遺言に、難しい決まりはありません。
だからこそ、今すぐにでも始められるのが魅力です。

まずは、以下のようなステップを参考にしてみてください。

ステップ1:思いついたことをメモする

「この不動産はどうしてほしい」
「家族にはこうしてほしい」
「お世話になった人に伝えたいことがある」

——ほんの一言で構いません。書くことが大切です。

ステップ2:専門家に伝える

書いたものは、信頼できる人に「こういうのを書いてみた」と話しておきましょう。
家族、司法書士、かかりつけの不動産業者など、どなたでも構いません。

保管方法を決める

自宅に置いておくのもいいですが、見つけてもらえない可能性もあります。
「どこにあるか」を誰かに伝えておくか、専門家と共有するのも有効です。

ここまで来たら、必要に応じて正式な遺言書へ発展させることもできます。
でも、それは次の段階。まずは一言のメモからで十分です。

プチ遺言は“未来の家族へのやさしさ

人は、言葉を残せなかったことを後悔するよりも、
言葉が残っていたことに救われることの方が、ずっと多いものです。

プチ遺言は、立派な文章や証人も必要ありません。
ただ、あなたの「ちょっと一言」が、家族を救います。

もし今、「いつか遺言を書こう」と思っているのなら——
その“いつか”を、今日にしてみませんか?

まずは、メモ帳を一枚取り出すことから。
あなたのその一歩が、家族を未来で支える大切なメッセージになります。

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この記事を書いた人

宅地建物取引士杉山善昭
宅地建物取引士、建築士、公認不動産コンサルティングマスターなどの有資格者。「杉山善昭の不動産ワクチンがいまなぜ必要か?」著者
(公社)神奈川県宅地建物取引業協会中央無料相談所相談員。
1990年から不動産業界に従事、2005年(有)ライフステージ代表取締役就任。