借地権「他界したら返す」と書いてしまった——念書一枚が生んだ危機

地主さんから突然、一枚の書類を差し出されることがあります。
「自分が他界したら、この土地を返す」
そう書かれた念書です。「地主さんとの関係を壊したくない」「断ったら何か言われそう」——そんな不安から、断り切れずにサインしてしまう方がいらっしゃいます。実際に、そういうご相談を受けたことがあります。
相続した借地権付きの実家について、売却を検討していたご相談者が私のところにいらっしゃいました。
話を聞くと、以前に地主さんから「将来この土地を返すという念書を書いてほしい」と求められ、断り切れずに親御さんがサインしていたというのです。
地主さんはその念書を根拠に、「約束したのだから売却はできないはずだ」と主張していました。
他界したら契約解除は有効か?
結論から言うと、借地権は借地借家法によって強く保護された財産権です。
地主さんとの間で交わした念書一枚で、その権利が消えるわけではありません。
ただ、これを「法的に無効だ」と私が地主さんに主張するのは適切ではありません。
法的な判断や交渉は、弁護士の領域だからです。私がご相談者にお伝えしたのは、一つのことだけでした。「念書が有効かどうか、市区町村などが開催している無料の法律相談に行って、弁護士に確認してきてはどうでしょう」
地主さんは実際に無料の法律相談に行かれました。
そこで弁護士から、念書を盾に借地権の譲渡を阻止することはできないという説明を受けたそうです。
第三者である専門家から直接説明を受けたことで、地主さんは納得されました。感情的な対立ではなく、法律という客観的な判断基準を間に置いたことで、話が動き出したのです。
その後、売却の手続きは前に進みました。
ただし、注意も必要です。
今回のケースでは念書が無効となったに過ぎず、借地契約の内容や現在の状況によって、判断が分かれることもあります。
事例から学ぶ教訓
この事例には、二つの教訓があると思っています。
一つ目は、念書や覚書には安易にサインしないこと。地主さんから書類を求められたとき、その場で断れないと感じても、「持ち帰って確認します」と言う権利があります。サインする前に、必ず専門家に相談していただきたいです。
二つ目は、対立ではなく「理解」で解決できることがあるということ。
地主さんが悪意を持っているとは限りません。今回のケースも、地主さんは「念書があるから権利を主張できる」と信じていただけでした。
正しい知識を得た途端、話が動き出したのです。借地権の問題は、専門家を敵対的な交渉の道具として使うのではなく、双方が正しい知識を持つための橋渡しとして使うことで、解決しやすくなることがあります。
この記事を書いた人

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宅地建物取引士、建築士、公認不動産コンサルティングマスターなどの有資格者。
「相続した実家、売る?貸す?使う?」
「杉山善昭の不動産ワクチンがいまなぜ必要か?」著者
(公社)神奈川県宅地建物取引業協会理事兼中央無料相談所相談員。
1990年から不動産業界に従事、2005年(有)ライフステージ代表取締役就任。





