借地権「勝手に販売している」——地主が激怒した日

借地権の売却は、借地人の正当な権利です。
法律上、販売活動をすること自体は違法ではありません。
ですが、法律上問題がないことと、現実にうまく進むかどうかは、まったく別の話だったりします。

こんにちは、宅建士の杉山善昭です。

あるご相談者が、相続した借地権付きの実家を売却しようと、不動産会社に依頼したことがありました。

その会社は通常の物件と同じように、インターネットに販売広告を掲載しました。何も聞かされていなかった地主さんが、たまたまその広告を目にしてしまった。

「私に断りもなく、勝手に売りに出している」


地主さんは激怒。不動産会社は対応しきれず、手を引いてしまいます。
依頼者は途方に暮れ、口もきいてもらえない状態の地主さんだけが残りました。
その状態で、私のところに相談が来たのです。

依頼を受けた不動産会社は、借地権の扱いに不慣れだったのだと思います。

通常の所有権の物件であれば、販売広告を出すことに何の問題もありません。
ですが借地権の売却には、必ず地主さんの承諾が必要です。しかも承諾が必要なのは「売っていいですか」という一点だけではなく、譲渡承諾料、新規契約の承諾料、再建築承諾料と、いくつもの折衝が地主さんとの間に必要になります。

そしてこの折衝は、地主さんが感情的になってしまった後では、著しく難しくなります。

では、最初から地主さんに話をすれば良かったのか——実はそう単純でもありません。
「いくらで売れるか」の見込みすら分からない段階で、承諾料の交渉を持ちかけることもできないからです。

査定で売却価格の見込みを把握しながら、地主さんの気持ちに配慮した根回しと折衝を並行して、一つ一つ順番に進めていく。

この「気持ちの勘案と順番の設計」こそが、借地権売却を専門家に依頼する最大の理由だと私は感じてます。

私が引き受けた時点で、地主さんは借地人と口もきいてくれない状態でした。
それでも約1年かけて、最終的に売却を成立させることができました。

誤解のないように申し上げると、地主は私との会話を拒否していたのではありません。
私との会話も拒否している状況では、弁護士法に基づき弁護士に依頼することになります。


ただ、最初から専門家に依頼していれば、この時間と労力は必要なかったはずです。こじれ方によっては、どうにもならないケースもあります。

最初に相談する不動産会社の選び方が、すべてを左右します。「借地権の取り扱い実績があるか」を確認していただきたいですし、地主さんへの連絡は、専門家の指示を受けてから行うことをお勧めします。「まず挨拶しておこうかな」という善意の行動が、後の交渉を複雑にしてしまうこともあるからです。

この記事を書いた人

代表取締役士杉山善昭
代表取締役士杉山善昭
宅地建物取引士、建築士、公認不動産コンサルティングマスターなどの有資格者。
「相続した実家、売る?貸す?使う?」
「杉山善昭の不動産ワクチンがいまなぜ必要か?」著者
(公社)神奈川県宅地建物取引業協会理事兼中央無料相談所相談員。
1990年から不動産業界に従事、2005年(有)ライフステージ代表取締役就任。