「AIが正しい」とは限らない

最近、現場でよく起きるようになったことがあります。依頼者の方がAIを使って、私が作成した書類をチェックする、というケースです。
それ自体は悪いことではありません。ただ、少し困ったことも起きています。
AI時代だからチェックすることは当たり前に
売却や賃貸管理の委託契約で、私がいろいろな書類を作って依頼者に送ると、「ここを修正してほしい」という連絡が来ることがあります。
これ自体は普通のことです。ただ、文面を見ると分かるんです。
ご本人が考えたものではなく、AIに確認させた回答をそのまま修正要望として出してきている、ということが。
内容を見ると、「一般論としてはそうかもしれないが、この案件には関係ない」という指摘だったり、現場を知らないと出てこない的外れな修正だったりします。
現場のことを知らないAI
分かりやすい例を一つ挙げます。委任状の話です。
業務の依頼を受けると、市役所で書類を取得する必要があることがあります。依頼者が法人の場合、法人宛の委任状を作りますが、市役所の窓口の対応は実はバラバラです。「法人とその人の関係を示す書類を出してください」と言われたり、「法人の本人確認はどうすればいいのか」と窓口の職員さんが困ってしまったりすることもあります。最悪の場合、書類が取得できないこともあります。
だからこそ実務上は、委任状の宛先に法人と、実際に窓口に行く担当者個人、両方を併記します。
そうすることで、窓口の手続きがスムーズに進みやすくなるのです。これは現場でよく使う対応です。
ところがこの委任状をAIに確認させると、「委任先はどちらか一方に絞った方がいい」という回答が出てきます。
理屈としては間違っていません。
ですが、市役所の窓口の現実を知らない。依頼者さんはその回答をそのまま「修正してください」と持ってくる。
そこで話が止まってしまうのです。
ハルシネーションという幻覚
もう一つ、大事なことがあります。AIはインターネット上にある膨大な情報を拾ってきて、それをもっともらしく整えて回答を出します。
だから一見、正しいことを言っているように見えます。
ですが、現場の実態と合っていないことがありますし、そもそもAIが出した情報自体が間違っていることもあります。
これを「ハルシネーション」と言います。
AIが自信満々に、でも事実ではないことを答えてしまう現象です。不動産の専門的な話になればなるほど、ネット上の情報は玉石混交で、AIが拾ってくる情報の精度も下がりやすくなります。
AIの出力にハルシネーションが混じっていないか、現場の実態と合っているかを確認できるのは、経験のある専門家だけです。
AIはあくまでも道具であり、使いこなせるかどうかは人間側の問題なのだと思います。
取引相手はAIではなく人間
そしてもう一つ、今日一番お伝えしたいことがあります。不動産の取引は、正論だけでは成立しない、ということです。
売買でも賃貸でも、相手がいる話です。自分がどれだけ正しい(と自分では思っていること)と思うことを言った(つもりで)も、相手が「嫌だ」と言えば取引は成立しません。
法律的に正しいかどうかと、取引がまとまるかどうかは、別の話なのです。
もちろん、相手の言いなりになる必要もありません。大切なのは、相手の主張も受け止めながら、妥協点を探すことです。
AIが出した「正論」を武器に相手にぶつけても、取引はまとまりません。
むしろこじれてしまいます。取引をまとめるのは、最終的には人と人の話し合いだからです。
AIは便利な道具ですし、私自身も使っています。ただ、最終的な判断は専門家に任せていただきたいと思っています。
「AIがこう言っていたから」ではなく、「専門家に聞いてみよう」という一歩を踏み出してみてください。
この記事を書いた人

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宅地建物取引士、建築士、公認不動産コンサルティングマスターなどの有資格者。
「相続した実家、売る?貸す?使う?」
「杉山善昭の不動産ワクチンがいまなぜ必要か?」著者
(公社)神奈川県宅地建物取引業協会理事兼中央無料相談所相談員。
1990年から不動産業界に従事、2005年(有)ライフステージ代表取締役就任。
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