相続した不動産を売却するには?手続きの流れと注意点を宅建士がわかりやすく解説

相続した不動産を売却するには全体の流れを把握することが大切

相続が発生すると、遺産の整理だけでなく、不動産の名義変更や相続税の確認、売却準備など、さまざまな手続きが必要になります。特に「相続した不動産を売却して現金化したい」と考えている場合は、複数の手続きを並行して進めなければならず、順番を間違えると余計な時間や費用がかかることもあります。

この記事では、相続不動産を売却するまでの流れを、宅建士の視点からわかりやすく解説します。これから相続を迎える方や現在相続手続き中の方、不動産売却を検討している方はぜひ参考にしてください。

相続不動産の売却には4つの手続きが関わる

相続した不動産を売却する場合、主に次の4つの分野の手続きが同時進行で進みます。
・不動産取引
・相続税などの税務
・相続登記
・測量・境界確認

これらはそれぞれ独立しているように見えますが、実際には密接に関係しています。

例えば、相続登記が終わっていなければ売却活動を始めることができません。また、相続税を納めるために売却資金が必要なケースでは、納税期限に間に合うよう販売スケジュールを組む必要があります。

そのため、一つひとつを個別に考えるのではなく、全体像を把握しながら進めることが重要です。

不動産売却の流れ

まずは不動産調査からスタート

売却を考えたら、最初に行うのが不動産の調査です。

長年所有している土地や建物だから問題はないと思われる方も多いですが、実際には売却時になって初めて課題が見つかるケースは少なくありません。

調査では主に次の3つを確認します。

現地調査

現地を確認し、
・境界に問題はないか
・建物の状態
・接道状況
・周辺環境
などを確認します。

役所調査

役所では、
・道路台帳
・水道・下水道
・用途地域
・建築制限
などを調査します。

土地によっては建物を建て替えられないケースや、建築制限を受けるケースもあるため、非常に重要な調査です。

市場調査

さらに、
・周辺相場
・買主ニーズ
・売却までの期間
・想定売却価格
などを調査し、適正価格を検討します。

誰に売るかで売却戦略は変わる

売却価格を決める際には、「誰に売るのか」という視点も重要になります。

代表的な売却先は3つあります。

一般の買主

市場で広く募集する方法です。

時間はかかることがありますが、高値で売却できる可能性があります。

不動産投資家

収益物件や再活用できる土地などは、不動産投資家が購入するケースもあります。

物件によっては一般市場より早く売却できることがあります。

不動産会社による買取

できるだけ早く現金化したい場合は、不動産会社による買取も有効です。

一般売却より価格は下がる傾向がありますが、
・短期間で売却できる
・契約不適合責任の負担が軽くなる
・残置物があるままでも相談できる
などのメリットがあります。

相続税の納税期限が迫っている場合などには、有力な選択肢になるでしょう。

販売開始から引き渡しまで

売却方針が決まれば、不動産会社と媒介契約を締結し、販売活動を開始します。

買主が決まれば売買契約を締結し、その後は引き渡しの準備に進みます。

通常は建物内の家具や家財道具などを撤去し、空き家の状態で引き渡します。

ただし、不動産会社による買取では、残置物をそのまま引き受けてもらえるケースもありますので、片付けが難しい場合は事前に相談するとよいでしょう。

相続税の確認も早めに行う

相続が発生すると、相続税がかかるかどうかを確認する必要があります。

相続税がかからないと思っていても、小規模宅地等の特例などを利用する場合は申告が必要になることがあります。

「税金がかからないから申告しなくていい」と考えるのではなく、まずは税理士などの専門家へ相談することが大切です。

不動産評価の方法

相続税を計算するには、不動産の評価額を決めなければなりません。

売却済みであれば売却価格が参考になりますが、売却前には主に次の方法で評価します。

路線価による評価

国税庁が公表している相続税路線価を利用します。

比較的簡単に評価できますが、土地の個別事情が十分反映されない場合があります。

不動産鑑定

路線価では実勢価格とかけ離れる場合、不動産鑑定士による評価を利用するケースもあります。

適正な評価が得られれば、税額が変わる可能性もあります。

相続税には納税期限がある

相続税の申告・納税期限は、相続開始から10か月以内です。

もし相続税を不動産売却代金で支払う予定なら、この期限までに売却を完了しなければなりません。

一方、手元資金で納税できる場合は、売却を急ぐ必要がなくなり、販売戦略にも余裕が生まれます。

このように税務と売却スケジュールは密接に関係しています。

相続登記は売却前に済ませる

不動産を売却するには、相続登記が必要になります。

一般的には、
・遺産分割協議
・遺産分割協議書の作成
・必要書類の収集
・相続登記申請
という流れで進みます。

誰が不動産を相続するのか決まっていない状態では、売却活動を始めることができません。

そのため、遺産分割協議は早めに行うことが重要です。

また、生前に遺言書を作成しておけば、相続人同士の話し合いがスムーズになり、トラブル防止にもつながります。

測量・境界確認も重要

土地を売却する際には、境界確認や測量が必要になることがあります。

土地の境界は「このあたり」ではなく、ミリ単位で確定します。

測量では、
・境界杭の確認
・隣地所有者との立会い
・境界確認書への署名押印
・確定測量図の作成
などを行います。

隣地所有者との調整に時間がかかることもあるため、売買契約後ではなく、できるだけ早い段階で進めることが理想です。

すべての手続きを並行して進めることが成功のポイント

相続不動産の売却では、
・不動産調査
・税務確認
・相続登記
・測量
を並行して進めます。

その後、
・媒介契約
・売却活動
・売買契約
・残置物の整理
・引き渡し
・相続税申告
という流れになります。

一つでも遅れると全体のスケジュールに影響するため、専門家同士が連携しながら進めることが非常に重要です。

相続前から準備することが重要な理由

相続不動産の売却では、相続が発生してから動き始めると、さまざまな手続きが短期間に集中します。特に相続税の申告期限は相続開始から10か月以内です。葬儀や四十九日などを終えてから不動産の整理を始めると、実際に使える時間はそれほど多くありません。

そのため、可能であれば生前から準備を進めておくことが大切です。例えば、土地の境界を明確にしておく、必要に応じて測量を行う、遺言書を作成しておくといった対策があります。

生前対策は、残された家族の負担を減らすだけではありません。税金面でもメリットが出る場合があります。

例えば、相続発生後に測量費用として50万円を支払った場合、その費用は相続税を納めた後のお金から支払うことになります。しかし、生前に測量などの準備をしておけば、財産額そのものを減らすことにつながり、結果として相続税の負担軽減につながる可能性があります。

同じ費用を支払う場合でも、いつ行うかによって結果が変わることがあります。相続対策というと税金対策だけを考えがちですが、不動産の整理や家族間のトラブル防止も含めて、早めに準備しておくことが重要です。

専門家と連携して進めることが成功のポイント

相続した不動産を売却する場合、単純に売れば終わりというものではありません。不動産の価値を調べ、税金を確認し、名義を変更し、境界を整理するなど、多くの確認事項があります。

これらを別々に進めてしまうと、後からやり直しが発生したり、不要な費用がかかったりする可能性があります。

不動産会社だけでなく、税理士、司法書士、土地家屋調査士など、それぞれの専門家と連携しながら進めることで、スムーズな売却につながります。相続不動産の売却を考えた時は、まず全体の流れを把握し、早めに相談することが大切です。

まとめ

相続した不動産の売却は、不動産会社だけでなく、司法書士、税理士、土地家屋調査士など多くの専門家が関わる手続きです。特に相続税には10か月という期限があるため、想像以上に時間的な余裕はありません。相続が発生してから慌てるのではなく、生前から境界確定や遺言書の作成などの準備を進めておくことで、相続人の負担や税金を軽減できる可能性があります。相続不動産の売却を成功させるためには、全体の流れを理解し、早めに専門家へ相談しながら計画的に進めることが何より大切です。

この記事を書いた人

代表取締役士杉山善昭
代表取締役士杉山善昭
宅地建物取引士、建築士、公認不動産コンサルティングマスターなどの有資格者。
「相続した実家、売る?貸す?使う?」
「杉山善昭の不動産ワクチンがいまなぜ必要か?」著者
(公社)神奈川県宅地建物取引業協会理事兼中央無料相談所相談員。
1990年から不動産業界に従事、2005年(有)ライフステージ代表取締役就任。